徳島大学の大石昌嗣准教授、高輝度光科学研究センター回折?散乱推進室の廣井慧博士研究員(現研究プロジェクト推進室任期制専任研究員)、尾原幸治主幹研究員、京都大学の下田景士特定准教授、内本喜晴教授の研究グループは、大型放射光施設SPring-8のBL04B2を利用した構造解析を行い、リチウムイオン二次電池(Lithium-ion battery, LIB)のリチウム過剰系層状酸化物(Li-rich layered oxide, LLO)正極において、2種類の性質の異なる支柱を有する低結晶相が形成され、多量のリチウムイオンの脱離挿入を実現し、高い充放電特性を示すことを明らかにしました。
LIBは、ロッキングチェア型電池とも言われており、リチウムイオンが正極と負極を行き来することで充放電します。従来の正極材料は、充放電時に層状構造からリチウムイオンのみが脱離挿入し、材料の骨格構造が変化しないため可逆性の高い優れたサイクル特性を示します。しかし、高容量化を目指して多量のリチウムイオンを脱離すると、骨格構造を保つことが困難となり、サイクル劣化の原因となります。高容量正極材料として、LLOは従来の正極材料よりも多量のリチウムイオンを含有し、また多量のリチウムイオンを脱離挿入できますが、その高容量を実現している構造メカニズムの詳細はわかっていません。本研究グループは、放射光を利用した詳細な構造解析を行うことにより、遷移金属イオンによって形成される2種類の支柱がLLO電極の初期充電後に存在することを突き止めました。一方の支柱は既に知られているもので、層状構造を支える代わりにリチウムイオンの拡散を阻害してしまいます。もう一方の支柱はリチウムイオン欠乏時にのみ現れるため、結晶構造の安定化と容易なイオン拡散を両立することができます。後者の支柱、「アダプティブピラー」こそが、LLOの高充放電容量を実現する鍵であることがわかりました。
この成果によってLLOの更なる高性能化に指針が示されました。今後、アダプティブピラーの働きを最適化することによって、より高性能で、かつ安価なLIBの開発に結びつくことが期待されます。
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【プレスリリース】リチウムイオン電池正極の低結晶層状構造を支える2種類の支柱(PDF 1.69MB)