亚洲博彩十大网站排名_澳门足球博彩公司推荐【唯一授权十大网站】7年3月25日(火)
会場 アスティとくしま
徳島大学長
河村 保彦

 本日、学士の学位を取得した6学部1,197名の卒業生、修士の学位を取得した大学院6研究科、470名の修了者、並びに博士の学位を取得した46名の修了者の皆さんに、徳島大学を代表して心からお祝い申し上げます。また、ご家族や関係者の皆さまにも祝意とともに、長い日々を見守っていただきましたことに感謝申し上げます。併せて、日頃より大きなご支援をいただいておりますご来賓各位、徳島大学関係同窓会の皆さまにも深謝申し上げます。

 さて本日、卒業?修了という人生における輝かしい機会に、改めて皆さんに読書の大切さやAI(人工知能)、さらにリベラルアーツについての考え方をお伝えしたいと思います。

 まず最初に、昨年の秋に徳島県民文化祭の行事で、「読書のススメ」と題した講演会がありました。その行事では、徳島ペンクラブ会長を務めておられる総合科学部の依岡隆児先生や、美馬市脇町のお生まれで、現在若手文芸評論家としてご活躍の三宅香帆さんのご講演がありました。講演会では読書をどう捉えるかということが主題でした。三宅さんによれば、現代はインターネットの時代で欲しい情報はすぐ手に入るし、しかも自分にとって好ましい情報だけを受け入れることができる。そんな世の中では、読書は「ノイズ」と捉えられているとの見解でした。これに対して、三宅さんご自身は、「ノイズ」自体が本を読む醍醐味と感じていらっしゃるとのことでした。

 続いて、皆さんもマスコミ報道等で知っていらっしゃることと思いますが、今年度の直木賞受賞者のお一人は伊予原 新さんで、「藍を継ぐ海」と題した作品で受賞されました。一方、私は昨春、徳島大学の育成したい人材像や将来あるべき姿を、「INDIGO宣言」として策定しました。「INDIGO」はもちろん徳島の伝統産物の藍です。INDIGOのIはIntegrity(誠実)、NはNoble and Novel(高潔と斬新)、DはDynamism and Diversity(活力と多様性)、次のIはInclusion(寛容?包摂)、GはGlobal(世界へ発信)、OはOpen(開かれた徳島大学)を意味します。そうした経緯もあり、“藍”や“INDIGO”といった言葉が出てくるたび、私は敏感に反応してしまいます。この「藍を継ぐ海」も、私はすぐ書籍を買い求め、一気に読み終えました。読後の感想は抽象的ですが、「思い出深い旅を終え、自身の住まいに戻った」感じというところでしょうか。とても故郷への愛に溢れた、温かい気持ちを感じました。五つの短編作品をまとめた形になっていますが、さすがに地球惑星科学の研究者から作家に転身された経歴の持ち主だけあり、しっかりとした科学的な背景に基づいた記述を、巧妙なストーリーの中に散りばめた秀逸な作品と感銘を覚えました。本の帯に「科学が、わたしたちをあたたかく包み込んでくれる。」とあり、印象的でした。

 さらに、現在日立製作所会長で本学卒業生の東原敏昭氏の著書「日立の壁」をご紹介します。同社は、2008年度決算で8,000億円近い赤字を計上するという、倒産すら意識せざるを得ない危機に陥りました。そうした状況下、川村隆?元会長及び故中西宏明?前会長らが大胆な経営改革を行い、劇的な業績のV字回復を遂げます。東原氏は、お二人の後を引き継ぎ社長に就任されましたが、経営を盤石なものとするべく営業利益率の高い「稼げる会社」とするとともに、「グローバル企業への成長」を目指されました。ただ、東原氏は当初社長への就任を打診された際には、大いに迷われたそうです。その時、助けになったのが東原氏の経験でした。同氏は、部長在任時の44歳から出勤前の2時間を読書にあててこられたそうです。その中の一冊、東洋哲学?思想家の安岡正篤(やすおかまさひろ)氏の「知命と立命」を思い出したとのことでした。「知命」とは自らが天から与えられた能力を自覚すること。それを存分に発揮するのが「立命」。そして、この二つを懸命に実践していけば、受け身の「宿命」を自分で切り開く「運命」に変えることができると思い至られた。東原氏にとっての「知命」は、現場を知り尽くしていること、そして「立命」は後継社長に指名されたこと。自らの立場で「知命」と「立命」を考え、肚(はら)をくくったとのことです。翌日、川村元会長にメールで「社長職を受ける。しかし今の私の力では、社長業はImpossibleだが、勉強してImpossibleのIのあとにアポストロフィを入れてI’m possibleにする」と伝えたそうです。「事実は小説より奇なり」と言いますが、こうした東原社長のご就任そのものが、同氏の読書の習慣に基づくドラマでした。

 この辺りで、読書とAI、さらにリベラルアーツについて考えをまとめましょう。本や読書の持つ意味は何なのでしょうか。その際、私は芸術社会学者の河原啓子(かわはらけいこ)さんの見解が有用な指針になると考えます。河原さんによれば、芸術作品は芸術家の「沈思黙考の痕跡」、そしてそれを鑑賞する人は作品を鑑賞して個人的な「内的思索」をする、と指摘されています。読書もその分析と似て、著者の紡いだ言葉と文章を「読む」ことからさらに一歩進んで、作品を「食べ、咀嚼し、吸収する」という発想で思いを巡らし、探り当てた真理を味わうということではないかと考えます。
 一方、AI(人工知能)はどうでしょうか。AIは、すでにオンライン上にある膨大な蓄積データを学習し、ある単語に最も確率の高い単語を続けてもっともらしい回答を作成します。従って、現在の身近なAIのレベルでは、そこに何の情感も感じることはできません。また、かえって簡単なことに誤りを生じることもあります。例えば足し算や、眉山の高さですら誤ってしまうことを私自身は経験しました。それに対して、数学や物理に人は何を求めてきたのか。多分世界で一番有名な、アインシュタインのE = mc2の式は、一般的にはどんな天変地異が起ころうと変わらない。こうした自然界の真理を見つけ、単純で美しいと思う感覚と、それを発見しよう、発見したいという意欲は人間に固有のものと思います。その点について、現時点に限れば、AIには情緒も美的感覚もないのではないか。すなわち、こうしたアーティスティックな感覚は人間本来のものであり、AIには望み得ない。皆さんは、これまで一般教養を学びました。これは良く「リベラルアーツ」と言われます。また最近では、STEM教育(S=Science、T=Technology、E=Engineering、M=Mathematics)に加えて、STEAM教育という用語も良く聴くようになりました。STEMにA(Art)が加わっています。これは、人間として「美しい」と感じられる感性が人間らしさ、自分らしさの根本にあることを再認識し、人生を送る道標(みちしるべ)になる重要な学びとして「リベラルアーツ」を価値づけられるものと私は考えます。ただし、AIは現在進歩の途上にある技術です。最近では、汎用的AIの開発も進んでいます。また、AIが高度化すると一挙にその能力が進化し、Singularity(技術的特異点)が現れるとの予測もあります。2045年にはSingularityが現実となり、人工知能は自己フィードバックによる改良を繰り返して人間を上回る知性が誕生すると予想されています。また、最近はAIによる音声がニュースを伝えたり、アメリカのアリゾナ州では裁判所にAIアバター(分身)のスポークスパーソンすら登場しています。
 この技術的特異点に関して、徳島大学で学ばれた漫画家の竹宮惠子さんの作品は示唆に富んでいます。竹宮さんの有名な作品「地球(テラ)へ ???」では、AIが発達し、社会を徹底的に支配する世界を描いています。人々はもはや機械の選択した情報に支配され、疑問を抱くことはないという、ある意味で恐るべき未来社会を描いています。
 
 
そろそろ皆さんへの餞のメッセージのまとめを意識し、徳島大学が関わる話題に戻ります。幸いなことに、徳島大学はここ数年、国から高い評価を受けて、「徳島大学VISION」として掲げた、教育、研究、医療、社会との共創、組織運営のそれぞれで、多数の財政的支援が得られています。また、建物の改修や新営も進んでおり、建設工事の槌音が絶えません。以上の内、皆さんは特に「地域中核?特色ある研究大学強化促進事業」、すなわちJ-PEAKSの大学の出身であることを意識され、今後も誇りを持ってそれぞれの進路でご活躍願いたいと思います。このJ-PEAKSは、十年後の徳島大学のあるべき姿を描き、本学の強みや特長である「光工学」、「慢性炎症研究」、「栄養学」と「情報科学」の研究に文系?理系を問わず全学を挙げて横断的に取り組み、その成果を全国に展開し、他のJ-PEAKS大学とともに我が国の研究力のベースアップに貢献するものです。現在、大学は国立、公立、私立全体で800校を超えます。徳島大学は、134機関から申請があったうち、5倍を超える厳しい選抜をくぐり抜け、採択された25機関の一つとなりました。中国?四国地域の採択校は、広島大、岡山大と本学の3機関のみです。徳島大学は、J-PEAKSを含めて「創造的超高齢社会の実現」を達成すべきテーマとして掲げています。我が国は、人口減少や高齢化、エネルギーや食糧、天候不順、地震などの自然災害、新型コロナウイルス禍のような新興感染症の蔓延など、多くの課題を抱えています。そうした社会課題に対して、徳島大学はその持てる力を駆使して人々が高齢になっても健康で社会に参加?貢献し、人間的で安心安全な生活を享受できる社会―すなわち、創造的超高齢社会―を創造することを目指しています。
 卒業、修了される皆さんは、今後も奢ることも弛むこともなく、「知命」と「立命」に気付き、「宿命」を「運命」に変え、それぞれの立場で輝かれるよう祈ります。

 結びとしまして、皆さんはAIを大いに援用するとともに、人との対話や読書の内容を「話す、読む」という段階から「食べ」、「味わい尽くし」、思索を深めて人にしかできないことに力量を発揮していただきたい。そして徳島大学のレガシーとINDIGO宣言を誇り高く胸に抱き、 社会や世界という広大な世界に力強く歩み出していただくことを願って止みません。卒業?修了誠におめでとうございます。

最終更新日:2025年3月25日

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