Inhibitor for 6-helix bundle formation
HIV-1が引き起こすAIDS治療薬として、現在アジドチミジンに代表される逆転写酵素阻害剤やプロテアーゼ阻害剤が利用されています。また、近年ではこれら薬剤の併用療法によりかなりの治療効果が得られるようになってきました。しかし、この多剤併用療法に関しても多剤耐性ウイルス株の出現により治療効果が望めない症例が見られるようになりつつあります。そこで、上述の薬剤とは異なった作用機序を有する化合物の開発がのぞまれています。当グループでは HIV-1とその標的細胞の融合(Fusion)を阻害することにより、抗HIV活性を示すペプチド性化合物の開発を行っています。
現在、HIVは標的細胞に対して次のようなメカニズムで感染するものと考えられています。
- HIV-1の表面糖蛋白質であるgp120と標的細胞膜上のCD4蛋白質の相互作用が起こる。
- この相互作用の結果、HIV-1のgp41蛋白質が3量体を形成すると共に、gp41のN末が標的細胞膜にアンカリングされる。
- このgp41の3量体から、gp41蛋白質の分子内相互作用を介して6-helix bundle構造が形成され、HIVと標的細胞の膜が近接する。
- さらに、gp120蛋白質とHIV-1の第二受容体として同定されたケモカインレセプター(CXCR4など)が相互作用し、さらにHIV-1と標的細胞が近接し、最終的に膜融合が起こり、感染が成立するものと考えられています
したがって、gp41蛋白質の分子内相互作用、すなわち6-helix-bundle構造形成を阻害する化合物は抗HIV活性を有することが期待されています。
当グループでは、この蛋白質相互作用を阻害するペプチド性抗HIV剤の開発に取り組むと共に、これらの化合物にきわめて強力な抗HIV活性があることを明らかにしてきました。
さらに、当グループでは、これらの研究概念を近年世界的に大流行したSARSの原因ウイルスであるSARSコロナウイルス (SARS-CoV)にも応用しております。これらの方法論の一般化を図ることで、今後人類が直面するであろうEmerging Virusに向けた創薬研究に貢献していこうと考えております。