研究ハイライト(代表的成果)
自然免疫型T細胞を制御する人工リガンドを創製
J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 29964–29976.
doi: org/10.1021/jacs.4c12997
MAIT細胞は自然免疫型T細胞の一種であり、病原体に対する感染防御や、がん、自己免疫疾患など様々な病態形成に関わっています。MAIT細胞は、T細胞受容体(TCR)を介して、抗原提示細胞上のMHC class I-related protein(MR1)タンパク質とリガンドの複合体を認識して活性化され、サイトカイン誘導を介した様々な免疫応答を示します。我々は、MAIT細胞の活性を制御する人工リガンドを創製することができれば、MAIT細胞の機能を利用した新たな治療戦略が可能になると考えました。様々な検討を行った結果、微生物由来の化合物からの構造展開により、MAIT細胞を活性化する独自の人工リガンドの取得に成功しました。
免疫賦活化能を有する古細菌脂質を発見―古細菌脂質はMincle受容体に認識される―
J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 18538–18548.
doi: org/10.1021/jacs.3c05473
古細菌は、一般的に極限環境に生息する微生物と認識されていますが、ヒトを含めた哺乳類の腸管や皮膚などにも常在する身近な微生物です。しかしながら、常在古細菌が宿主の健康や疾病にどのように関わっているかについては、解析がほとんど進んでいません。我々のグループは、精密有機合成による化合物供給と様々な免疫活性評価によって、古細菌が有する特徴的な脂質(グルコシルジアルキルグリセロール)が自然免疫受容体Mincleに作用して、炎症性サイトカインの産生などの自然免疫応答を活性化することを明らかにしました。古細菌は、細菌や真核生物とは異なるドメインの生物であり、特異な分子を数多く有します。本研究が発端となり、宿主の免疫機能を制御する分子群の探索が進めば、新たな標的?作用機序の発見、新規創薬シーズの創出などに繋がることが期待されます。
自然免疫型T細胞を制御する生薬や食事成分由来のリガンドを同定
J. Med. Chem. 2023, 66, 12520–12535.
doi: org/10.1021/acs.jmedchem.3c01122
MAIT細胞は、ヒト末梢血における最大のT細胞亜集団であり、病原微生物からの生体防御や、がん、自己免疫疾患など様々な病態形成に関わっています。我々は、MAIT細胞の活性を制御するリガンドを探索するための独自のスクリーニング系を開発し、化合物スクリーニングを行いました。その結果、植物に由来するconiferyl aldehydeをリガンドとして同定しました。Coniferyl aldehydeは、これまでに同定されてきたリガンドと異なり、フェニルプロパノイド骨格を有します。MAIT細胞が腸管をはじめとする粘膜組織に豊富に存在することを踏まえると、coniferyl aldehydeのような、食用植物や生薬に由来する化合物がリガンドとして機能することは非常に興味い結果と言えます。本研究で新たに開発したスクリーニング系は、今後、内因性?外因性抗原を含む幅広いリガンドの同定に貢献すると期待されます。
可視光応答性光触媒を用いて抗炎症作用を示すヒガンバナアルカロイドの全合成を達成
Angew. Chem., Int. Ed. 2020, 59, 21210–21215.
doi: org/10.1002/anie.202009399
Zephycarinatineやzephygranditineは、ヒガンバナ科植物より単離されたアルカロイドであり、四級不斉炭素を含む複雑な五環性骨格を有します。これらのアルカロイドは、様々な腫瘍細胞株に対して増殖阻害活性を示すほか、NO産生阻害による抗炎症作用を示すことが報告されています。我々は、可視光応答性光触媒によるアミノ酸誘導体の脱炭酸を伴うラジカル生成と、それに続く分子内ipso環化反応を鍵反応としてzephycarinatine類の全合成を達成しました。さらに、本経路を用いて種々の誘導体を合成し、NO産生阻害活性を示す新たな誘導体を見出しました。