佐川眞人先生の「Nd-Fe-B磁石の発明 -新分野の核発生を達成しよう-」と題する講演会が、2026年3月4日(水)、徳島大学 常三島けやきホールにて、徳島県と徳島大学の主催で開催されました。
開会は河村保彦学長、閉会は徳島県経済産業部 黄田隆史部長がご挨拶され、進行は研究支援?産官学連携センター(大学発ベンチャー創出研究会)の加藤研一客員教授が務めました。会場には学生だけでなく、幅広い世代の社会人も集まり、オンライン参加者も含めると、200名近くが聴講しました。
佐川先生が本学で講演:若い研究者に伝えたいこと

佐川先生は徳島県のご出身で、神戸大学大学院修士課程(電気工学)?東北大学大学院博士課程(金属材料工学)を修了され、1972年に博士号(工学)を取得された後、富士通株式会社、住友特殊金属株式会社(現:株式会社プロテリアル金属)で研究を続けられ、1984年にネオジム磁石を発明されました。
講演会は学生時代から企業で研究を続けてこられたご経験から「研究者はすばらしい仕事である」とお話しされました。
大学で身につけた基礎力が社会で役立つ

私は材料科学者を志して、大学院まで材料科学の基礎的勉強をものすごくやりました。本当は大学に残りたかったけれど、良い論文が書けず、1972年に富士通の研究所に入りました。会社から与えられた研究テーマはリレーやスイッチに使う磁性材料の開発でした。入社当時はどうしようかと思いましたが、1年もするとコツが分かってきて、1976年にはチームリーダーとなり、新たなテーマが与えられました。それがフライングスイッチ用「壊れないSm-Co磁石」の開発でした。磁石について独学で勉強し、磁石製造装置は遊休設備を改造して自作しました。大学院時代の基礎的な勉強と実験の経験を生かすことができ、磁石の研究にのめり込みました。
その中で「なぜ希土類(R)-Fe磁石はできないのか」について疑問を持ちました。1978年に参加した学会でブレークスルーのヒントをつかみ、実験をかさねました。会社から与えられた新テーマは順調に進み、翌年、開発に成功しました。目標を達成したので、次こそR-Fe-B磁石の研究をしたいと考えていましたが、会社としては「磁石の研究はやらない」といわれ、新しいテーマとしてNdCo5系スピン再配列の材料開発と応用の研究に取組み、1980年に研究に成功しました。この頃、私は管理職に昇進していましたが、非公式でR-Fe-B磁石の開発を続けており、NdCo5の研究の経験からNdの化合物が新磁石の材料として有望と気付くことができました。
1982年には富士通に辞表を出して、住友特殊金属(住特金)に応募しましたが、返事がもらえず、電話をすると、たまたま社長が直接応対してくれて、すぐに採用が決定、1982年初めに入社しました。頭の中にあった約50種類の合金組成を、2人の若いパートナーと評価し、1982年7月には世界最強のNd-Fe-B磁石が誕生しました。その後、改良を重ね、1985年には量産工程が確立します。
ネオジム磁石の発明により、大阪科学賞、日本国際賞など数多くの賞をいただきましたが、2022年にエリザベス女王工学賞を受賞しバッキンガム宮殿に招待されたときは感激しました。
若い研究者は10年後のニーズを満たす研究テーマを見つけてほしい
研究者はすばらしい仕事です。若い研究者の目標は10年後のニーズを満たすことです。その観点からアイデアを練って、良い研究テーマを見つけてほしい。今のニーズを満たす研究は年配研究者の仕事です。若い研究者はその手伝いをしながら、自分独自の研究テーマを見つけて下さい。
基礎研究の研究室に所属している若手研究者は、チームの現在の研究に集中し、成果を上げつつ、自由時間を活用して次の研究テーマについて考えて下さい。現在の研究目標を達成したら、次に何を明らかにする必要があるかと考え、そこからアイデアを発展させ、自分だけの研究テーマを見つけて下さい。
私は成功した理由は、大学院まで行って、よく勉強して基礎力を付けたことと、「考えて、考えて、考えて」というライフスタイルが成果を上げたことです。私は究極のNd-Fe-B磁石を目指して研究を続けます。
会場とオンラインから質問がありました

(前列)佐川先生と質問をした学生
「学生の時はどのように過ごされていましたか?」
―学生の時、特に大学院生になると授業はほとんどないので、家で本を読んで、かなりの時間、自習をしていました。
「住友特殊金属の社長は佐川先生の研究に興味があったのでしょうか?」
―社長は文系の法学部出身の方でしたが、私の話を聞いて、直観的に「これはいける」と思われたのだと思います。
「情熱を失わず、健康で研究を続けられる秘訣を教えて下さい」
―研究を続けているからだと思います。もちろん運動もしますが、情熱をもって研究を続けているからこそ、健康でいられると思います。
「佐川先生がされたことを、何故、他の人はしなかったのでしょうか?」
―私がやったことは、みんな分かっていることです。年齢を重ねると、頭では分かっていながら、今やっていることを止めて、新しいことを試そうとはしない。そんなことは若い時しかできない。だから、私は若い時に研究してほしいと思います。
編集後記
今回は「T-PEAKS」特別号としてお届けします。
講演中、元素記号の表が出てきましたが、Ndが原子番号60の希土類元素(レアアース)である「ネオジム(Neodymium)」、Feは鉄、Bはホウ素です。講演会のタイトルの読み方も分からないまま参加しましたが、開会の挨拶で河村学長から「一度くっつくと本当に外れない磁石を発明された先生です」と紹介されて、佐川先生の偉業を理解しました。世界的にも著名な先生ですが、やわらかい口調でお話され、質問にも丁寧に答えられ、終始、暖かい空気に包まれた講演会となりました。企業で研究を続けられてきたためか、個人の努力はもちろん、チームで成果を上げることが大切だというメッセージが込められていました。
この講演会が、若手研究者にとって自分のキャリアや研究そのものについて考える良い機会になればと思います。
T-PEAKS編集長 武川 恵美
研究支援?産官学連携センター

